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神経症とは

扉絵

神経、というものがあります。

 

人の身体の中には無数の神経があり、

その回路によって何かしらを伝えています。

脳には特に、神経として働く細胞が密集しています。

それが、脳の神経細胞です。

 

今回は、

神経の不具合の一種である

『神経症(しんけいしょう)』について

お伝えしようと思います。

脳の神経細胞

脳の神経細胞の働き。

 

「学校で習った気がするけど、もう忘れた」という方、

ご安心ください。

ここで一緒におさらいしましょう。

 

脳の中での伝える働きには、次の二種類があります。

 

(1)神経細胞同士が連動するために、

脳内ホルモンという物質の受け渡しで伝える働き

 

(2)神経細胞の中で、

イオンと呼ばれる小っっっっさな電気信号が流れて伝える働き

 

(1)と(2)の両方が

脳の中の活動として起き続けているわけですが、

今回はこれらの違いを中心に話を進めていきたいと思います。

 

例えてみましょう。

誰かがボールを持っていて

別の誰かにそれを渡す(伝える)とします。

(1)投げて渡すのと、

(2)ボールを持ったまま走って行って届けるのと、

ふたつの方法もあるようなものです。

 

…この例えはちょっと「違う」かな。

確かに、「違う」と言われれば「違う」んですけど、

あくまでイメージですので、ボールを渡す例えを使って

できるだけシンプルに

脳の神経細胞の働きを説明していきたいと思います。

脳神経での不具合

(1)

ボールを投げる側が少なかったり、

届かなかったり

多く性急な暴投を繰り返したり、

受け取り手が少なかったり、

グローブにすでに別のボールが入っていたり、

または、投げるボールの数が

本当は10球ぐらい渡したいのに、1球しか無かったり…。

そんな不具合がありえます。

ボールの受け渡しの問題、ほうるもん(ホ…ルモン)の問題です。

 

ホルモン。ホルモン物質の受け渡しによって

伝える働きは脳細胞同士でも起こっています。

(「脳内ホルモン以外のホルモンの影響も無視できない」とも言われていますが、)

脳内ホルモンが精神状態に影響することがあります。

 

ホルモンに関する問題には、医学・医療などが対応します。

『精神疾患(せいしんしっかん)』と呼ばれる疾患ごとに、

なんらかのホルモン異常が関係していると考えられています。

 

(2)

ボールを走って行って届ける考えられて場合の問題についてはどうでしょうか?

「走る姿をからかわれて、それから走る意欲が湧かない」

「疲れて走れない」

「途中でどこへ行ったらいいか迷って分からなくなる」

「途中に妨害する奴がいる」

「他に速い奴がいて、そいつに勝てない」

「転んだ痛さで、もうトラウマ」

「もともと苦手」

「心細い」

「自信が無い」

など、

事情によって、走って辿り着くことに困難が生じます。

 

これらはイオンの電気信号のどこかに干渉が起きていて

うまく走っていかない、心に不具合が生じる現象の例えとなっています。

 

少しイメージを修正することになるかも知れませんが、

ひとつの細胞ではなく、

まとまりとしての神経回路として想像してみてください。

回路といっても、脳は

パソコンやスマホよりもはーるかーに複雑で細かなものであり、

それが心の仕組みを成しているのです。

 

上で「 」で書いたセリフは、

本人さえ自覚が無いかも知れない心の声でもあります。

そして、そうした不具合が

なにかしらの症状となって現れたものが『神経症』と呼ばれています。

例えば、つらい体験をした場所に向かうと吐き気をもよおすようになった、

というのも、『神経症』の症状の一種だと言えます。

 

様々なケアの方法のひとつとして

臨床心理学・心理カウンセリングも対応します。

精神疾患と神経症の違い

これら『精神疾患』や『神経症』といった用語は

大きなくくり(いわゆる総称)であって、

どちらも実際には様々なタイプがあります。

 

ここでは、大きなくくりの意味に注目します。

 

ホルモンの受け渡しの異常が関連した『精神疾患』には、

お薬が効くと考えられます。

ボールのイメージだと、たとえ投げる能力には限度があるとしても、

配球数などを適度に調整したり、

跳ね返ってくるボールで手元がいっぱいにならないようにする、

といったことであればそれなりの対応が可能というわけです。

視点を反転して「お薬が効くものが『精神疾患』に分類される」と言っても…

「お薬だけが医療じゃない」と言う医療関係者の見解も当然ですが…、

私は差し支えないと思います。

 

一方、

神経の小っっっっさな電気信号の流れの過程に生じる『神経症』は、

お薬を使うことで、

程度を緩和したり正常な働きの補助はできるとしても、

症状そのものを治療することは狙っていません。

 

そのため、

『精神疾患』には医療が有効、

『神経症』には心理カウンセリングが有効といった形で、

いったんは書かせていただきました。

 

しかし実際のところ、

『神経症』においても背景に脳内ホルモンの異常が確認されたり、

精神疾患』にも対話による支えが有効であったりと、

必ずしもキッチリ区別されるわけではないのです。

 

診断はお医者さんが行なってくれます。

予想がつく場合であっても、

大きなくくりで「どちらか」と判断するのではなく、

専門の医療機関を受診するのが確かです。

または、医療に敷居の高さを感じる方は

公認心理師や臨床心理士といった心理カウンセラーをお尋ねください。

精神状態、心理状態に関して理解を整理するお手伝いをいたします。

 

ちなみに

『精神疾患』の症状が重いもの、『神経症』は軽いもの

といった話がネット上で見られたりしますが、

これまで書いてきたように、その話は誤りです。

もう医学に神経症という呼び名は無い?

ここまで繰り返し『神経症』という言葉を使ってきました。

驚かせてすいません、突然ですが、

医学から『神経症』という言葉が消えた、という話をします。

 

かつては医学に『神経症』という診断名が存在しました。

 

ひとつの例を挙げると、その昔、

戦争から安全な母国へと帰還したはずの兵士たちが、

受けたストレス体験の影響で、

銃声などの幻聴にさいなまれたり、

怪我をしていないはずの手足の動きがままならなかったり、

意識が飛んだり、

ぐっすりと眠ることができなくなったり…、

そういった症状を呈したのに対して

『戦争神経症』という言葉が使われたのです。

 

現在、『神経症』という呼び方は

医学の診断名(病名)から無くなりました。

 

『戦争神経症』についても

『PTSD(ピーティーエスディー)』という用語が使われています

 

なぜ医学界は『神経症』という用語を削除したのでしょうか。

残念ながら真意は、

診断名を改定した当時の関係者に聞いてみないと分かりません。

 

次に記すのは、

以前、ある医師の先生との雑談の中でうかがった話です。

私は「『神経症』という用語が使われなくなった

理由を知りたくて。先生はご存知ですか?」と尋ねました。

 

先生から、まずは「医学は、科学的に捉えられないものを治療対象としないから」とのことでした。

神経細胞間のホルモンに関することであれば科学で究明できるけれど、

それ以外の症状を生み出すような神経の伝達についてとなるとより難しいのです。

 

次に「それと、『神経症』の指す現象の捉え方が、あいまいになり過ぎたからではないでしょうか」とのことでした。

症状を意味する「〇〇症」よりも、

困難を意味する「〇〇障害」と捉え直した方が

具体的な支援に結びつきやすい、とも言えるのです。

 

その会話の最後に先生は

こうおっしゃたと記憶しています。

「まぁ…、と言っても僕は使いますけどね、『神経症』。

それでしか言い表せないものがあると思うので」。

 

この言葉の意味について

私は、『神経症』を呈する心理の奥深さや複雑さについて

おっしゃっていたのかと解釈しています。

ですが、

もう少し深い含蓄あるものなのかも、とも考えています。

様々な神経症

『神経症』は確かに

科学としての現代の医学では決まった型として見定めがたく、

あいまいなものでもあります。

ですが、このブログでは引き続き

捉え方として、有効なもの」と考えていきます。

 

代表的な『神経症』を挙げてみましょう。 

 

本来は危険ではないはずの事物や状況に対してでさえ

強い恐怖を覚える『恐怖症(きょうふしょう)』

(参照 >>『心理ブログ』恐怖症とは

 

特定の事柄に抑えられないほどのこだわりが生じる

『強迫性障害(きょうはくせいしょうがい)』。

(参照 >>『心理ブログ』強迫性障害とは

 

心のコンディション(参照 >>『心理ブログ』気分について)を

不安定にしてしまう『不安神経症』というものもあります。

『精神疾患』の場合でも『不安』になりがちですが、

『不安神経症』はあくまでその成り立ちが『神経症』というわけです。

 

感情(参照 >>『心理ブログ』理性と感情についてに作用したり、

イライラするなど機嫌(参照 >>『心理ブログ』機嫌とはに作用

する『神経症』もあるでしょう

 

病気であるかのような身体的なみや不具合を感じる

『神経症』もあります。

医学的な原因が存在しないのに

一時的に言葉が発せられなくなったり、耳が聞こえなくなる

といった症状も『神経症』の一種と言えます。

 

また、不眠や生活習慣に関する困難の中には、

『神経症』とみなし得るものもあるはずです。

 

すでに述べたように、キッチリと区別されるわけではありません。

『強迫神経症』ではホルモンの異常も関係があるとされ、

お医者さんの診断によってはお薬を処方してくださる場合もあるのです。

ですが、

不眠(睡眠障害)に関して

入眠導入剤などがあるのを多くの方がご存知かと思いますが、

眠れない状態の背景に『神経症』の影響があるのなら

それとして捉えることが肝心だと言えるでしょう。

医学や心理学の進歩

このブログに書いたことは、

医学や心理学の長い歴史をかいつまんだ内容です。

それなりに時代に左右されない内容を書いたつもりですが、

数十年後には「古い」となっているぐらい

医学や心理学が今よりも進歩していると良いですね。

 

進歩に期待しますし、進歩はあるはずです。

 

例えば、

かつて『戦争神経症』と呼ばれたものも含む『PTSD』に関して。

その症状は心が受けとめきれないぐらいの強烈なストレスを受けて

その体験を脳で正しく処理できないために生じる『神経症』だと言えます。

心理カウンセリングの専門家の間でも、

どのように緩和していくのか長年に渡って議論されています。

(標準的な対応という意味でも、個人差への対応という意味でも。)

そんな中、ある時、

アメリカの教育者であり心理学者でもあったシャピロという人が、

身体(例えば眼球運動)に「右・左・右・左・右・左…」という

リズミカルな刺激が加わると、

脳の正しい処理作業が補助されるという現象を発見しました。

きっと多くの専門家が「まさか」と懐疑的にも思ったでしょうけど、

それが科学的に実証され、いまや技法として確立しています。

 

また、

磁力を頭部に当てることによって、

脳が活性化されてコンディションが改善するということも

分かってきました。

もちろん、こちらも科学的に立証された適切な方法であることが重要であり、

その研究が続いているのです。

 

人間の脳もしくは心には未解明で不思議なところが

まだまだあるはず。

 

『精神疾患』と『神経症』についても、

ともに対応方法が進歩していくよう望むところです。

神経症と心理カウンセリング

『精神疾患』との対比という形でしたが、

『神経症』というものについて、ご理解は得られましたでしょうか。

 

心理カウンセリングは、

『神経症』に対応する取り組みを提供いたします。

 

基本的には、

「脳神経の回路をより機能的にしていく取り組みだ」と

思っていただいて大丈夫だと思います。

ただし、コンピューターの回路であれば技師が治しますが、

心に関しては、ご本人のすでに持っている力を使うことこそが鍵であり、

心理カウンセラーが手助けさせていただくような形になるでしょう。

(参照 >>『心理ブログ』心を活かすパートナー

 

事情は様々なはずです。

『神経症』に対応する取り組みは、

それぞれで異なりますし、

状況や状態によっても変わります。

併せて

次のブログのテーマは『心の防衛』です。

『神経症』の症状も心の防衛として働くことがあります。

ぜひ、そちらも併せてお読みください。

※ 当ブログで記す 「心理カウンセリング」 とは

 川越こころサポート室が提供するものを想定しております。

 他機関の専門性を保証するものではないことをご了承ください。    

※ 今回のブログは、様々な見解がある中のひとつです。

鹿野 豪

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